ただそこにあるだけ

空へ?エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか

空へーエヴェレストの悲劇はなぜ起きたか

ジョン クラカワー, Jon Krakauer, 海津 正彦

ずいぶん、マスコミでも取り上げられたので覚えておられる方も多いだろう。

日本人女性を含む、1996年のエヴェレストでの大量遭難事故の実際の体験を元にしたレポである。


僕も山が好きで、学生の頃は休みの度に山登りに出かけていた。

子供の頃から父親に連れられ何度か山に行っていたため、うぬぼれていたのだろう、18の夏、傾山~祖母山の単独縦走に出かけた。

どちらの山も、別々ではあるが、2度ほど登っていた。それが余計に“楽勝”という勘違いを助長した。

標高も1700m程度と、決して高くはない。

ところが、生まれて初めて、自分の愚かさに直面し、そのために命を落としそうになる体験をすることになる。

標高が低いゆえの高温と、あるべきはずの水場がない、そして縦走路の予想以上の距離とアップダウンの激しさ。

たまたま、地図に載っていない道に出くわし、それを下ることで夜半過ぎに人家にたどり着くことが出来た。

この体験は、僕にとって忘れられない貴重なものである。

さて、表題の本である。

史上最悪、と言われた大量遭難事故に、雑誌の取材という形で同行した著者が、つぶさに見、聞き、また後日の取材によって、我々を極寒の強風吹き荒れる“世界最高峰”での悲劇に立ち会わせてくれる。

そして、人間の様々な欲望が、山によって暴き出される様子も教えてくれる。

悲劇は、様々の要因が複雑に重なって起きた。誰の責任とか、簡単には言えない。多少なりと山での経験があるものには、現地での状況が「考え難い」ことであることがよく分かる。

山は、ただそこにあるだけである。

事故が起こる時、それは人間の過失によってしか、起き得ない。

世間に与えた衝撃を考えると、この本の存在は大きい。

様々なトラウマを抱えたであろう、しかし勇気を振り絞って(もちろん仕事、ではあっただろうが個人的な心情は察してあまりある)世に発表した著者に敬意を示したい。

山を愛する人、そうでなくとも一体あそこで何が起こったのか少しでも気になっている方に、ぜひお勧めしたい。

「ただそこにあるだけ」への2件のフィードバック

  1. おもしろそう。旅中の一冊としてamazonに注文します
    私の息子は明日、高尾山登山ですと。たとえ高尾山でも甘くみるなとよくいっておきます。

  2. >賢作さん
    危険なことは、近所の山でもヒマラヤでも変わらない、ということですよね。
    しかし、だからといって山の魅力が減るわけでもありませんしね~(^_-)十分気をつけて楽しんで来て下さい。山から、いろんなことを教えてもらいましたよ、僕も。

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