評価:
Mike Oldfield Virgin ¥13,672 (2000-07-11) コメント:孤独な吟遊詩人、新境地を開く4th。呪文のごとき音のうねりは、優しく包んでくれる。それにしても何なんだ、このプレミアぶりは! |
生来、どこか放浪癖があるのか、実際に現地に行かなくとも絵画やら映画やら、音楽で旅をした気になる。
そういう部分は、誰でも多かれ少なかれあると思う。
僕の場合、多分に音楽である。
“プログレシッブ・ロック”という、奇妙奇天烈なジャンルがこの世にあると知ったのは12の春。
早30年か。
80年代のいわゆる産業ロック(商業主義を恥ずかしげもなくさらけ出し、ミュージシャンもリスナーも、またその間にいたギョー界も腐っていたと思う)とバブルが瞬く間に膨れ上がっていく様を、何か分からないけど何か違う!でも自分の周りは誰もそんな話を聞いてはくれないし、理解もしてくれないという思春期特有であるけど、ある種のジレンマを抱えて灰色の高校時代を過ごしていた。
自然と、リアルタイムの音楽より一昔前の、70年代の音楽へと興味は移った。
そんなとき、町の貸レコード兼中古レコード屋さんでこのアルバムを見つけた。
2枚組で安かったから。
ジャケに映る兄ちゃんはよく分からんけど、バックの波打ち際に未だ見ないイギリス海岸があった。
その何やら灰色の雲が立ちこめる様子に見入ってしまった。
Mike Oldfieldといえば、ヴァージン・レコードであり、エクソシストである。
デビューアルバム「Tubular Bells('73)」はLP1枚で1曲という(実際にはA/B面に別れるが)、なんとも唯我独尊的なアルバムだ。
しかし当時ベンチャー企業の一つであったヴァージン・レコードはこの1枚に社運をかける。
映画「エクソシスト」にあのイントロが採用された経緯もあって、結果大成功を収める。
一度は聴いた事あるでしょ?
ま、その印象が強すぎるけど、本当の「Tubula Bells」はのどかな牧歌的なものだ。
これを含めた初期3枚は甲乙つけ難い作品で、爽やかさと、どこか物寂しい感じが同居するイギリスの牧歌風景をイメージしてトリップするには最適。
これらをMike一人で多重録音、当時の機材のスペックを考えると途方もない努力と忍耐の賜物だ。
そして発表された「Incantations(’78)」。
それまでの内省的な面が後退し、オーケストラやアフリカンパーカッション、女性コーラスとゲストの参加もあって、ひとつ殻がむけた感じがある。
それまでの内陸の丘陵から、大西洋からの風を受ける海岸へ。
2枚組で4曲(つまりLP片面で1曲)という大作指向は相変わらずだけど、Part OneからPart Fourまで、きちんと起承転結がありバリエーションも豊か。
曲の長さを感じさせず、最後までいつの間にか聴いてしまう。
同じようなテーマの繰り返しが、それこそ呪文のように展開していくのだけど、それが気持ちよい。
Part Oneでは、それまでの牧歌指向を引き継いだように静かなテーマで幕を開ける。
Part Twoでは徐々にそれが広がりを持ち、女性ボーカル(マディ・プライヤー。美しい・・・)が優しく前半を締めくくる。
Part Threeでは激しいテーマが展開された後、Part FourでPart Oneのテーマが再び繰り返される。
そこまで高まっていたものが一気に大団円を迎える様は圧巻。
このアルバムには青春の思い出がもう一つ。
学生時代に自転車で北海道を20日間周った。
そのときに持っていったカセットテープの一つが「呪文」だった。
北海道の荒野を走っているときには、まさしく。
それ以来、このアルバムを聴くたびに、北海道とイギリスの海岸にトリップするのだ。